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妄想オムライス
床下は骨伝導 ワ((゚゚дд゚゚ ))ワワ !!!!!



千日前のヒゲソリ
古い大阪の地図を眺めていたら千日前に「ヒゲソリ」という町名があって、
おもしろいなと思いその由来を探ってみると、

堺の方から紀州街道をやって来て、一里塚のところから新しい紀州街道(日本橋筋)に出ずそのまま旧紀州街道を北上すると、千日の焼場や墓地に隣接する寂しい場所に到るが、そこに旅人が通りかかると藪から追剥が飛び出してきて「金出すか、髭剃ろうか」と脅されるということで、追剥のセリフそのままに「ヒゲソリ」の呼称になったらしい。

と、ここまでわかったのだけど、じゃなんで追剥は

ゞ發鮟个垢
  or
髭を剃ってほしいか

の二択を提示するのだろう。
旅人が「それはラッキー!髭剃ってちょんまげ」と言ったらどうするんだ。
お金を奪わず髭を剃ってあげたら追剥が商売にならないじゃないか。

二択の文句は言い換えれば「髭を剃られたくなかったら金を置いていけ」であり、
「髭剃ろうか」は「命惜しくば」に匹敵する脅し文句の筈でなければならず、
それなら何故「髭剃ろか」即ち「殺そか」の暗喩になるのだろう?

???

先日、塩見鮮一郎著「異形にされた人たち」を5年ぶりに再読した。まったく覚えがなかったのだが、p197より菊地山哉著「特殊部落の研究」を紹介しており、菊地氏の著書から学べる多くのこと、として「特殊部落の研究」から幾つかの項をリストアップしている。その中に「髪剃小法師と隠坊」というのがあった。もしかしてこれを読めば「ヒゲソリ」が脅し文句になった理由がわかるかもしれない、と喜び勇んで「特殊部落の研究」を手にし、目をかっぽじってよく見れば、なんだ、小法師が剃るのは「髭」でなく「髪」だよ。早とちりの勘違いが特技のわたくしは「髪剃・カミソリ」を「髭剃・ヒゲソリ」と読み違えたのでありました。

で、折角だから、カミソリコボシと読むのだな、髪剃小法師は何する人ぞ。


特殊部落の研究 菊池 山哉  p22〜 
 二、髪剃小法師と隠坊 より抜粋すると、


備前国邑久郡山田庄に山田公事文(くじぶみ)として文明頃の文書が伝わっており、

安国寺之聖住僧者、行基菩薩吏家方、寄路さひの輩にて、師と名(のり)たまふ。かみそりこぼし、聖住僧の者と、名(付)けさせ給ひて、五三昧を建立せられ、此聖に預けさせ給ふ。

 とある。この一節を判読すると、

●寄路(よりじ)さいは、頼りないもの、さいはさびで、田舎人のこと、黒川道佑の「遠碧軒記」五三昧の条に、「さびのもの」とある。

●行基菩薩の計らいで、
庶民も仏縁の人となるべく、寺も僧もないので、この守戸たる聖住僧が、髪剃小法師となって、仏縁の引導をした。

●京都から出したので、葬地を五三昧と書いたであろうが、念仏三昧所を定めてその三昧所の預りとなったので、法師と名乗り、聖と名づけた。

 そして、

髪剃小法師というのは、まだ仏教が広まらない頃、屍人が墓所に運ばれて来ると、守戸の人が小法師となって、屍人の髪の毛を一部剃って仏弟子の容をとったものだそうで、この事は奈良の百毫寺(びゃくもんじ)の人にも伝えがあり、昔は屍人の髪の毛を剃ったものでその為、隠坊と称えられたと伝えて居ります。


仏縁の引導は、死後に髪の毛の一部を剃ると死者は頭を丸め仏門に入ったと認められ、身分や生前の信仰に関わりなく誰もが形式的に成仏できるようになるという葬儀式の一環であり、「髪剃小法師=隠坊」はそれを含めた葬儀のすべてを執り行う専門職なんですな。

下難波の地が千日の墓地となるのは大坂落城後のことで、落城後最初の城代として赴任した松平忠明の市街整理の一環として、元和元年(1615)に寺院と墓地の移転統合を行った際、阿波座、津村、三津寺、上難波にあった墓地を下難波の千日前に移したのが千日墓地のはじまりだという(参考:郷土研究上方第10号)。千日に墓地の置かれた当初から髪剃小法師と称される職掌の人が居たかどうかは不明だけれど、隠坊が髪剃の儀式を担っていたかもしれないし、儀式は廃れたとしても「毛を剃る=成仏」の方程式は残り、「髪剃ったろか」は「成仏させたろか」と同義であると、江戸時代の人々は知っていたのではないだろか。


地図を見ながら「ヒゲソリ」の変遷を追ってみようかな。


明和4年(1767)増補大坂図 ミナミの繁華街の成立 PDF より

赤丸で囲ったところの文字を、微妙だけど思い切って「ケソリ」と読んじゃうよ。
京や奈良から伝わった葬儀式「髪剃」が大坂に来て「毛剃」に転訛したこととする。
従ってこの頃追剥が出たとすれば「金出すか、毛ぇ剃るか」と言ったかもしれない。


100年余り降って、
町名改正のあった明治3年直後の地図を見ると、


明治5年(1872) 大阪市中地區甼名改正繪圖

いつの間にか「ケソリ」が「ヒゲソリ」に変化した。


ちなみに千日墓地の場合、六坊(坊が六軒あった)の聖(隠坊・三昧聖)が
墓地管理や葬儀全般を取り仕切っていたという。墓地・刑場完備の、今で言う
「斎場」みたいなもので、千日墓地の運営は六坊の独占企業だった。


同じく明治5年 大阪圖

通称「ヒゲソリ」がそのまま字名に用いられ、西高津村字髭剃となった。


また降って、

明治44年 實地踏測大阪市街全圖

西高津村も字髭剃も無くなって南坂町に統合された。
 
この地図の裏面に名所案内と共に「布内通俗町名表」なるものが記載されており、
「古来云ひ慣はしたる町名の内今も世人の口にするもののみを記す」と謳った上で
いろは順に並ぶ地名の中に「髭剃 相生橋三丁南」と紹介している。
 http://tois.nichibun.ac.jp/chizu/images/0988915-u-1.html

町名改正が行われてから40年以上経っても、おそらく江戸時代から
慣れ親しまれて来た古称で呼ばれる町区や道がいくらも残っており、
その中に「ヒゲソリ」も含まれていた事がわかる。

 


 -まとめ-

京都や奈良から或る宗派といっしょに髪剃小法師がやって来ると、髪剃の儀式=死を想起させるもの、と大坂で広く認識されるようになり、人々は髪剃小法師と髪剃の儀式をいっしょくたにした上で略して「カミソリ」と、さらに短く「ケソリ」と言うようになりました。

旧紀州街道の、ちょうど千日の墓地の裏辺りに旅人目当ての追剥が出るようになり、「金を出すか、それとも殺して千日墓地に葬ってやろうか」などと脅しては金品を巻き上げていました。あるときシャレの利いたひとりの追剥が「金出すか、それとも毛ぇ剃ろうか」と端的に言ってみたところ、墓地の裏なもんだから「毛ぇ剃ろうか」の脅しの効果絶大で、以来追剥は「殺そうか」の代わりに「毛ぇ剃ろうか」と言うようになりました。 

又あるとき、千日の火屋に丸坊主で髭もじゃの屍が運ばれてきました。隠坊が、剃る髪のない代わりに髭剃ったろ、髭じゃ成仏できるかわからへんけどなんもせんよりええやろ、と心を籠めて死びとの髭を剃ってやったところ、その晩隠坊の夢枕に阿弥陀さまがお立ちになり、おまえの優しさに免じてこれからは髭剃りでも頭を丸めて仏門に入ったと看做し極楽往生させたる、とお告げがあり、以降「ケソリ」は「ヒゲソリ」と言われるようになりました。

こうして髪剃の儀式は時の移ろいとともに「カミソリ→ケソリ→ヒゲソリ」と言い変えられ、それに伴い追剥の脅し文句も「カミ剃ろうか → ケぇ剃ろうか → ヒゲ剃ろうか 」と伝承され、追剥の出没する当地は追剥の脅し文句そのままに「ヒゲソリ」と呼ばれるようになり、「ヒゲソリ」といえば千日の追剥が出る、あの場所のこととして人口に膾炙したのでした。てゆーもーそーはどーだろーヘンな大阪弁すみません。


 過去記事 旧紀州街道 ヒゲソリへの道








 

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こんにちは。いつも見ています。「ヒゲソリ」という地名の由来ですが、やはりご考察のなかにあった「カネ出すか、ヒゲ剃ろか」つまり、アゴに生えるほうの毛=ヒゲが元だと思います。
なぜなら、浄瑠璃にも出てきますが「笠の台が飛ぶ」という表現があります。これも「(処罰を受けて)首が飛ぶ」ことの間接表現です。こういった言い回しはいかにも当時の大坂の人らしい遠回し表現の部類なのではないでしょうか。
翻って「ヒゲ剃ろうか」ですが、やはり単純に「首を切って殺してしまおうか」という間接的脅し文句なのではと考察します。人を脅すにも粋(スイ)なのが中世大坂の人々のセンスなのでしょうね。
エムエス / 2017/06/30 1:23 PM

こんにちは!まったくおっしゃる通りと思います。地名もさることながら、その読み方にも上方の粋を感じます。ベタですが、日本橋はにっぽんばし、本町はほんまち、そしてそのアクセント。電車のアナウンスを聞くだけで未だにわくわくします。コメントを戴いたのを機に自分の記事をざっと読みなおしてみましたら、こんなに執拗に「ヒゲソリ」を追い求めていたとは!いや〜我ながらその粘着っぷりがちょっと恥ずかしく大部キモかったです。でも当時旧紀州街道を実際に歩き関町あたりで追剥に「金出すか〜それとも髭剃ったろか〜」と襲われるところを想像してニヤニヤしたりなんかして楽しかったです〜ってやっぱキモイわ!

「笠の台が飛ぶ」おもしろい言い換えですね!浄瑠璃を読んでいて知らない言葉が有っても読む事に必死で大抵読み過してしまいますが、今度から聞き慣れぬ比喩など書き遺しておこうかな。
オムライス / 2017/07/02 11:26 AM










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